皆さんは「スケープゴート」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは、問題の原因を他人や特定のグループに押し付けることを意味します。しかし、これが単なる心理的現象にとどまらず、意図的に社会や政治で利用されることがあるのです。
スケープゴートとは
人間は自然と「仲間」を求めます。仲間とは、共通の価値観や敵を共有する人々のことです。時に、個人や組織はこの心理を利用して、あえて「共通の敵」を創り出します。なぜかというと、共通の敵がいると、その敵に対して一致団結しやすく、グループ内の結束が固まるからです。
例えば、政治家が特定のグループを標的にしたり、組織が失敗の責任を一人に押し付けたりすることで、人々の不満や恐怖をその「敵」に向けさせます。すると、不安を感じていた人々は、この「敵」に対抗するために、扇動する側の政治家や組織を支持するようになるのです。
これを本コラムではスケープゴート戦術呼びます。
スケープゴートの具体例
ここからはより理解を深める為にスケープゴートの具体例を書いていきます。
具体例1:学校でのいじめ
学校におけるスケープゴート現象は、しばしばいじめの形で現れます。たとえば、クラスで何か問題が起きた時、その責任を特定の生徒に押し付けたり、問題をつくりあげることがあります。この生徒がいじめの対象にされ、クラス全体のストレスや不満がその生徒に向けられることで、他の生徒たちは一時的に団結感を得ることがあります。しかし、これは根本的な問題解決にはならず、生徒の間の対立を深めることになります。
具体例2:政治的利用
政治におけるスケープゴートの一例は、経済危機や社会不安の際に特定の民族や移民を非難するケースです。政治家や政党が、国の問題や失敗の原因をこれらのグループに帰属させることで、国民の不満や恐怖をそちらに向けさせます。これにより、政治家は支持を集め、国民の間の緊張や分断を引き起こすことになります。しかし、このような行動は問題の根本的な解決には繋がらず、長期的な社会の不和や紛争を生む可能性があります。
スケープゴートの心理的メカニズム
ここからはスケープゴートの心理的メカニズムについて書いていきます。メカニズムの理解は情報からの影響を少なくする為に有効な手段です。
その1:自己正当化
認知科学から見ると、スケープゴートは私たちの「自己正当化」の心理を反映しています。間違いや問題を直視することが難しい時、人々は責任を他者に転嫁し、自分自身や自グループのイメージを保つ傾向があります。このプロセスは、外部帰属と呼ばれ、自分の過ちを認めることを避けるための心理的防衛機制です。これは心理学の世界では認知的不協和の解消として知られています。
その2:所属欲求
また、スケープゴート現象は、私たちの「所属欲求」(社会的欲求)とも密接に関連しています。人間は社会的な生き物として、グループ内での安全と認識を求めます。共通の敵やスケープゴートを作り出すことにより、グループ内の結束を強化し、自分の所属感を確認することがあります。この心理は、不安や危機感が高まる時に特に強く現れ、集団内の一体感を生み出すために使われることがあります。
スケープゴートの組織や社会への影響
組織におけるスケープゴート戦術は、短期的には結束や支持を強化するかもしれませんが、長期的には社会に分断や対立を生む危険性があります。特定のグループに対する偏見や差別が生まれ、本来の問題解決から目を背けさせることになります。つまり長期的な組織の強化には悪影響なのです。
私たちが知るべきなのは、スケープゴートが戦術としてどのようにして人々の感情や行動に影響を与えるか、ということです。そして、この手法に惑わされず、問題の本質を見極める重要性を理解することが必要です。社会や政治の問題は、単純な「良い人」と「悪い人」の対立ではなく、より複雑な背景があることを忘れてはいけません。
「共通の敵」を作り出すことで一時的な結束や支持を得ることはできますが、真の問題解決には、心理や認知システムの理解と、他人に対する深い理解・対話が必要です。スケープゴートに頼るのではなく、本質的な解決策を模索することが、健全な社会を築く鍵なのです。
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