認知心理学では、人間の意識や行動が様々な要素によって影響を受けることがしばしばありますが、その中でも「プライミング」は特に興味深い現象の一つです。
本稿は、プライミングの概要と具体例について解説していきます。
1. プライミングの概要
プライミングとは、ある刺激(プライム)が後続の刺激に対する反応や認識を変化させる現象のことを指します。
プライムとなる刺激が後続の認知的処理を無意識的に誘導するこの現象は、言葉、画像、感情、体験など、あらゆる刺激によって引き起こされます。
認知心理学についてまだよく知らない方は以下の記事も参考にしてみてください。
2. プライミングの種類
プライミングは主に二つの種類に分けられます。それは、① 感覚プライミングと② 意味プライミングです。
① 感覚プライミングは、形や音、色といった具体的な感覚的特性に関連しています。例えば、ある特定の音を聞いた後にその音に関連するものを認識しやすくなるというものです。
一方、② 意味プライミングは概念やアイデアの関連性に基づいています。たとえば、「医者」の単語を聞いた後に「看護師」の単語を認識しやすくなる、といった具体的なケースがあります。
3. プライミングの例
もう少し具体的な例を挙げてみましょう。ある研究では、被験者に「老人」に関連する単語(例:「退職」「フロリダ」「カーリング」)を読ませ、その後被験者が歩く速度を測定しました。
そうすると、「老人」に関連する単語を読んだ被験者は歩く速度が遅くなるという結果が得られたのです。これはプライミングによって行動にまで影響が及ぶことを示しています。
4. プライミングの応用
プライミングの理論は、マーケティングや教育、広告などの多くの分野で応用されています。例えば、広告ではプロダクトのメッセージを消費者に伝えるために、プライミングを使用することがあります。また、教育の分野では、学習者が新しい情報を理解しやすくするために、関連する情報を先に提示するという方法がとられます。
以下の記事ではコカ・コーラの例を参考に、マーケティングとプライミングの関係について解説しています。
逆に、『悪魔の証明』(存在を否定することができない主張を提示することで、相手を困惑させるという手法)と掛け合わせて、悪用されている例もあります。
例えば、ある人に対して『あの人は詐欺師らしい』という噂を流すことによって、周囲の人はある人に対して詐欺師がそうじゃないかといった前提で判断することになります。こうなると少しでも怪しいと思われることがあると、さらに疑いが深まる為、周囲からの評価は自然と悪いものになっていきます。
これは仕掛ける側が自身のプライドやポジションを守る為に行われる場合や、仲違いを起こさせるため、または愉快犯的に実行される場合もあります。
5. プライミングの影響
プライミングは、私たちの意識や無意識の思考や行動に影響を及ぼします。無意識のうちに自分の行動が他の要素によって形成されているということを理解することは、自分自身の行動をより深く理解するための一歩となります。それはまた、他人の行動を予測し、理解するための重要な手がかりともなります。
6. まとめ
プライミングは、私たちの日常生活の中で、そしてさまざまな学問領域で、広範に影響を及ぼしています。これを理解することで、自分自身や他人の行動をより深く理解することができるでしょう。しかし、その一方で、プライミング効果の限界と批判も理解し、適切な状況で適切な方法で活用することが求められます。
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